頼まれAI担当が最初にやるべき1つのことを整理する
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Askiveデイリー #119 ・ 2026-07-17

頼まれAI担当が最初にやるべき1つのことを整理する

金曜の夕方、経理を兼務する40代が社長に呼ばれた。「君、PC詳しいだろ。うちもAIってやつ、そろそろやらないと。担当、頼むわ」。詳しいとみなされた根拠は、数年前に会計ソフトの入れ替えを一人でやり切ったこと。それだけだった。翌週の月曜、彼の机には何も届かない。マニュアルも、予算も、締め切りすら。ただ「AI担当」という肩書きだけが宙に浮いている。

これは架空の話ではない。製造業の現場で在庫管理と経理を兼務する従業員50名規模の会社、あるいは小売業で総務と広報を掛け持ちする従業員20名以下の事業者など、業種・規模を問わず、同様の経緯でAI担当を任される事例は国内中小企業で広く見られると考えられる。中小企業庁「中小企業白書2024年版」(中小企業庁、2024年4月時点)でもデジタル化推進における人材不足と兼務体制の課題が指摘されており、専任担当を置けない実態が背景にある。

こうした状況に置かれた担当者に共通しているのは、任された本人がまずツールの選定から始めようとして、そこで動けなくなる点だ。今日この記事でお伝えする「最初にやるべき1つのこと」は、ツール選定でも稟議書でも社内展開でもない。自分の本業の中で一番面倒な繰り返し作業を1つ選び、それをAIに試してみることだ。この結論を念頭に置いたうえで、なぜその順番になるのかを以下で整理する。

ChatGPT、Claude、Gemini、Copilot。無料か有料か。比較記事を10本読んだところで、本業は1ミリも進んでいないのに、AI担当の仕事だけが増えている。便利になるはずのものを任されて、入れる前から重荷になる。この状況が、頼まれAI担当の初日の正体だ。そして「だから比較より先にやるべきことがある」というのが、本記事の出発点になる。

「まず全体像を把握しよう」が最初の罠

真面目な人ほど最初の一手を間違える

真面目な人ほど、最初の一手を間違える。全体像を把握しようとするのだ。

気持ちはわかる。任された以上、責任を持って進めたい。だから業界動向を調べる。するとAIモデルの性能比較、各社サービスのロードマップ、海外の導入事例といった情報が次々と流れ込んでくる。こうした情報は事実として存在する。だが、経理を兼務しながら急にAI担当になった人にとって、これらは何の役にも立たない。国際的な性能差の数値がどの水準であっても、明日の請求書処理は1枚も減らない。全体像を把握しようとした結果、把握すべき情報が多すぎて動けなくなる。調べれば調べるほど深みにはまる構造だ。

「勉強不足」という誤った自己診断

この段階で脱落する人の多くが「勉強不足だから」と自分を責める傾向がある。そうではなく、順番が逆なのだと考えられる。AIの全体像は、使い始めてから少しずつ見えてくる。地図を完璧に暗記してから旅に出る人がいないのと同じで、まず一歩踏み出した場所からしか、次の道は見えない。

AIを導入しない・しなくてよい条件も存在する

全員がAIを導入すべき状況にあるわけではない。以下のいずれかに該当する場合、現時点での導入を急ぐ必要はないと考えられる。

  • 繰り返す定型作業がほぼ存在せず、業務の大半が対面での判断・折衝で完結している
  • 扱う情報の大半が機密性の高い個人情報や営業秘密であり、外部サービスへの入力が社内規程・契約上許可されていない
  • 担当者本人が本業の繁忙期と重なっており、試行に充てられる時間が週に30分も確保できない状況が当面続く見込みである

「AIをやらなければ」という焦りは理解できるが、準備が整っていない状態で無理に着手しても、失敗体験が積み重なり、かえってAI活用そのものへの抵抗感が高まる可能性がある。タイミングと条件を見極めることも、担当者の判断として有効な選択肢だ。

最初にやる1つを決める:自分の繰り返し作業を選ぶ

「自分の作業1つを実験台にする」という原則

では、条件が整っている場合に何をするか。結論は一つ。今日は、自分の本業の中で一番面倒な繰り返し作業を1つだけ選び、それをAIに投げてみる。社内展開でも、ツール選定でも、稟議書でもない。自分の作業を1つ、実験台にする。それだけだ。

なぜ「自分の作業」なのか。理由は明快で、他人を巻き込まないからだ。同僚に「AI使ってみて」と配っても無視される。これは兼務型のAI担当が最初にぶつかりやすい壁だが、自分の作業なら誰の許可もいらないし、失敗しても誰にも迷惑がかからない。しかも、効果を一番実感できるのは、その作業を毎日やっている本人だ。

作業を選ぶ3つの条件

具体的に選ぶ作業には条件がある。「毎回ほぼ同じ手順で、文章を書くか整理する作業」であることだ。たとえば、こういうものが該当する。

  • 会議の後、走り書きのメモを議事録の体裁に整える作業
  • 取引先へのお礼メールや日程調整の返信文を毎回ゼロから書く作業
  • バラバラの形式で届く報告を、決まったフォーマットにまとめ直す作業

経理兼務の担当者であれば、たとえば「月末に届く各部署からの経費申請コメントを、承認・差戻しの定型文に振り分ける」あたりが候補になる。毎月やっていて、地味に時間を食い、しかも頭を使う割に付加価値が低い。こういう作業こそ、AIに投げる最初の一手にふさわしい。

無料版で3往復する:具体的な手順

有料契約は後回しでよい

選んだら、あとは動くだけだ。まず、無料で使えるチャット型のAIを開く。OpenAIのChatGPT、AnthropicのClaude、GoogleのGeminiはいずれも無料プランを提供しており、月額費用をかけずに試せる(各社公式サイト、2025年6月時点)。なお有料プランの価格帯は各サービスによって異なるが、個人向けの標準プランは月20ドル前後が多く、法人向けや高機能プランはその数倍になる場合がある(各社公式サイト、2025年6月時点)。今日の目的は業務改善の完成ではなく、「AIに投げるとどうなるか」を自分の手で1回体験することにある。その確認は無料の範囲で十分だ。

材料をそのまま貼り付け、日本語で頼む

次に、いつもの作業の材料をそのまま貼り付ける。走り書きのメモでも、届いたバラバラの報告でも構わない。整える前の、生のままのものを渡す。そして「これを議事録の形式に整えて」「このメモから、決定事項とやることリストだけ抜き出して」と、普段自分がやっている作業をそのまま日本語で頼む。プロンプトエンジニアリング(AIへの指示文を工夫して精度を高める手法)などという言葉は、今日は忘れていい。同僚に頼むときと同じ言い方でよい。

7割の出来から2〜3往復する

出てきた結果は、おそらく7割程度の出来だ。ここで「使えない」と判断するのが、次の脱落ポイントになる。そうではなく、「ここは違う、この部分はこう直して」ともう一度伝える。これを2〜3往復する。往復するうちに、AIが何を得意として、何を外すかが体感でわかってくる。この体感こそが、比較記事を100本読むより価値がある。所要時間は、慣れていなくても20〜30分程度と考えられる。本業を止めるほどの負担ではない。

この3往復を経た人と、経ていない人とで、その後の判断の質がまるで違ってくる。往復した人は「うちの仕事のこの部分はAIが得意そうだ」と具体的に語れる。往復していない人は、いつまでも「AIってどうなんですかね」と抽象的な質問を続ける。手を動かした量が、そのまま解像度の差になる。

「1つだけ」に絞る理由を整理する

兼任という資源制約を直視する

頼まれAI担当が抱える最大の資源制約は、時間でも予算でもなく「本業と兼任している」という事実だ。専任のDX推進部があるわけではない。今日もあの担当者は、AI担当の前に経理の締め作業を抱えている。この状況で「まず社内の業務を棚卸しして、AI化できる領域を洗い出しましょう」などと大上段に構えれば、初日で燃え尽きる。

脳の仕様への対応としてのタスク分割

人間の脳は、タスクが大きすぎると着手そのものを回避するようにできているとされる。行動経済学の分野では先延ばし行動(英: procrastination)として研究されている現象で、要するに「大きな山を前にすると、登り始めることをやめてしまいやすい」という状況が生じやすい。だから山を崩す。今日やることを「自分の作業1つ、20分」まで小さくすれば、脳は着手を許可する。タスクを小さくすることは、意志の弱さへの対策ではなく、脳の仕様への対応だ。

そしてもう一つ。1つの作業でAIの手応えを掴んだ人は、翌週、自然と2つ目を探し始める。誰に言われなくても、だ。逆に、初日に全社導入という巨大な課題を背負わされた人は、その重さに、AI活用そのものを敬遠するようになりやすい。最初の成功体験の小ささが、その後の継続を決める。これは兼務型のAI担当が置かれる状況において再現性が高いと考えられる傾向の一つだ。

最初の1つを終えた地点から全体が見えてくる

ツール選定・社内展開は「その後」の話

ツール選定も、社内展開も、稟議書も、いずれ必要になる。それは否定しない。だが順番がある。自分が一度も使っていないものを、他人に配れるわけがない。自分が「この作業ならAIが速い」と体で知っているからこそ、同僚に示す例に説得力が宿る。全体像は、最初の1つを終えた地点から見え始める。

今日の範囲を足のつく浅瀬に限定する

頼まれAI担当が動けなくなるのは、水が深いからではなく、最初から遠くまで泳ごうとするからだと考えられる。今日は、足のつく浅瀬で、自分の作業を1つだけ試してみればよい。国際的なAIモデルの性能比較や業界の最新動向は、足がついてから読んでも、何も遅くはない。

本記事はAI編集を経たのち、編集長が事実確認と品質チェックを実施しています。

本記事はAskiveのAIネイティブ編集部が執筆し、編集長 四月鶉(Yotsuki Uzra)が監修しています。内容は公開時点で確認できた情報に基づきます。